Mikami's Report 005

California Story

第4話

Mikami’s Report 005-4

California Story 第4話

Mikami’s Report 005

California Story

第4話

高級イメージのカーメル

 残念ながら中華料理店は(安くて旨そうで、満員だった!)着いたらすでにドアに「CLOSE」となっていて入れなかったので、その近くにあるイタリアンレストランに入った。

 カーメル・バイ・ザ・シーは、一時俳優のクリント・イーストウッドが市町を務めていた芸術の街で、通称カーメルと呼ばれている。僕が訪れたのは夜だったが、まるでイタリアのような、美しい町並みが続く。

 ダウンタウンには高級ブランドの店やギャラリーも多い。歩いている人もおしゃれに着飾っている人が多い。サンフランシスコの文化圏に来たんだなあ、と感じる。店のスタッフもじつに感じがよく、料理も美味しかった。

サンフランシスコへ

 3日目。結局、1日遅れでサンフランシスコに着いた。この日は1号線をたどってサンタ・クルーズ、ハーフムーン・ベイを通っていく道が魅力的だったが、天候が曇りがちなのと時間がないことから(このときにはまだ帰りにセコイアに寄るつもりだったのだ)、ナビに従ってフリーウェイで向かうことにした。目的地はゴールデン・ゲート・ブリッジだ。ありきたりな目的地だけど、サンフランシスコなら、やっぱりここが適当だろう。

 サンタ・クルーズからロス・ガトスを経て、北へ、北へ。途中は緑の多い森林だったが、やがて風景は開けていき、住宅街の連なる丘が続く風景になった。ゴールデンゲートブリッジの看板に従ってルート280を降り、再び1号線を北へと走るとサンフランシスコの住宅街に出た。

 クルマがびっしりで、すり抜けられる隙間もないほどだ。でも、そんな渋滞が80㎞/h近い速度で流れているのだから面白い。女の子が運転している隣のニュービートルのダッシュボードにはビートルらしく一輪挿しが備えられている。そんなところにも、サンフランシスコを感じる。

 クルマと自転車でひしめく1号線。ゴールデン・ゲート・パークを突っ切り、坂を下って上ったら、そこがもうゴールデン・ゲート・ブリッジだった。往復6車線の道に向かってクルマがなだれ込んでいく。

 1937年に完成したこの橋は、ゴールデン・ゲート海峡を越えてサンフランシスコとマリン・カウンティを結ぶ全長約3㎞の橋だ。海面から道路までの高さは約67m。

 赤い主脚を眺めながら渡り、渡ったところにあるビスタ・ポイント(展望広場)に入る。橋とアルカトラス島、サンフランシスコのダウンタウンを望むことが出来るこの駐車場は、無数の観光客でひしめいていた。ロンドン風の2階建てバスや観光バスが入れ替わり立ち替わり観光客を連れてくる。

ひとりぼっち

 バイクでソロツーリングしていると、こうした「観光地」はあまり面白くない。自分で自分の写真を撮っているのはなんとなく恥ずかしいし、いい写真を撮ろうと思っても邪魔が多すぎる。なので、早々に退散し、橋の西側にある展望台のほうへ向かうことにした。橋から繋がるフリーウェイをくぐって、下道で山を登っていく。

 数分も走れば到着するその駐車場は、自家用車でないと来られないこともあって、人数はさっきの場所ほどではなかった。折しも濃い霧で、橋は霧の合間に見えたり、見えなかったり。だが、風の具合で一瞬霧が途切れると、橋とサンフランシスコのダウンタウンが鮮やかに浮かび上がってくる。

 僕がこの橋を知ったのは、「太平洋ひとりぼっち」という本でだ。ご存知とは思うが、1962年、たった1人きりで小さなヨットに乗り、日本からサンフランシスコまで太平洋を横断してしまった堀江謙一さんの本だ。ここに辿り着いたときの彼の気持ちを考えてしまう。まだ僕が生まれる前の話だ。

 本当に凄いよなあ、と思いながら橋の写真を撮って感慨にふけっていると、自転車乗りのオジサンが「俺の写真を撮ってくれないか」とiPhoneを手渡してきた。街と橋をバックに撮りたいのだが、彼が自転車を両手で空に持ち上げると同時に橋に霧がかかってしまう。笑いながら数回繰り返して、ようやく成功した。

現地で要する時間

 そのあと、サンフランシスコのダウンタウンへと向かった。サンフランシスコでは、10年前に来たときに食べた安くて旨いビーフステーキを食べたかったのだが、残念ながら店が見つけられなかった。だが、ロサンゼルスとはまったく異なる、ニューヨーク的な街を……摩天楼のようにそびえる高層ビルの谷間をバイクで走るのは、とても新鮮な体験だった。

 ギャラリーなども多く文化的な香りが強くする。バイクを置いて、1日歩きたいなあと思った。海岸に近い公園ではフリーマーケットも開かれていたし、美味しそうな飲食店も多い。だが、道路は一方通行が多く、非常に混雑しているのでGSで走るのは厄介だ。

 僕のダメなところは、旅のプランを立てるときに「現地で要する時間」というのをついつい無視して計画を作ってしまうところだ。バハカリフォルニアとかなら、それでいいのだ。だって、目的地で観光することなんてほとんどないのだから。走る過程の道こそが目的だから、到着した街で過ごす時間なんて、おまけみたいなものだ。

 だが、こうしたオンロードツーリングでは、今後は目的地での滞在時間も付け加えたいと思った。だって、この街、凄く面白そうだから!

アメリカの食事は美味しい

 朝から何も食べてない。食べたかったステーキ屋も見つからない。良さそうな店を見つけたのだが、バイクを駐められそうな場所が近くにない。うーむ……と思っていたら、2時間まで無料で駐められる駐輪スペースの前にレストランがあるのを発見した。

 バイクを駐めてiPhoneで検索してみると、かなり評判のいい店のようだ。全面ガラス張りなので、バイクが店内から見られるのも安心だ。入ってみることにした。

 サンフランシスコらしくお洒落な店で、内装も料理もじつに素晴らしかった。高い店だったので、最も安いハンバーガーだけ(量的にはそれで十分なのだ)をオーダーしたのだが、人気がわかる洗練された味だった。

 よく「アメリカの食事はまずい」と聞くが、きっとそれはきちんと店を選んでないからではないだろうか? 日本でも、チェーン店やファストフード店の味は期待していくと「それなり」だ。きちんと料理に取り組んでいる店は、アメリカでもやはり美味しい。

 惜しむらくは、今の円安だと、アメリカの食事がかなり高く感じることだ。こうしたきちんとしたレストランだと、最低でも20〜30ドル+チップとなる。チップは2割くらいが標準だと言うから、1食で40ドル(4200円くらい)になるわけで、確かにこれでまずかったらがっかりだ。

 高く感じるのはレストランだけではない。タコベル(アメリカのタコスを中心とするメキシコ料理のファーストフードチェーン)でも、標準的なセットを頼むと7ドルくらいする。

 日本のマクドナルドでもそれくらいはするが、しかし、牛丼屋だったら300円で一食食べられるわけで、今の日本のファストフードがいかに安いのかを実感した。

坂道発進が苦手なライダーは絶対走りたくないだろうサンフランシスコの坂。
映画「ブリット」を思い出して、面白い!



 食事を済ませ、サンフランシスコを出る前に、一応写真は撮っておこうと、著名なロンバードストリートに向かった。急な斜面を美しい花壇に囲まれたつづら折れの道が下っていく人気の観光スポットだ。バイクで行ってみてわかったのは、サンフランシスコの坂がバイクだと……とくにGSのようなビッグバイクだと、かなり「やばい」ということだ。坂の斜度がもう、日本じゃあり得ないくらいきつい! それでいて、上がりきる直前に一時停止があったりする。Uターンなんて絶対無理! 想像しただけで、今でも手に汗をかいてくる。

 でも、そんな坂を上って、下りて、美しい町並みを眺めているだけでもじつに楽しい。いつかまた、ゆっくり来たいなあ。

旅の終わり

 サンフランシスコの街を訪れたあとは、シリコンバレーと呼ばれるエリアにある、サニーベールのモーテルに泊まった。マイクロソフト、グーグル、アップルとハイテク企業の揃っているこのエリアのホテルはどこも高く、時間をかけてようやく80ドル以下のホテルを見つけることができた。

 翌朝、アップル本社とグーグル本社(ともに祝日のため休みで人影はなかったが)を訪れ、そのあと南へと向かった。

 ロサンゼルス〜サンフランシスコの旅は、実質的にはここで終わった。最終日は所用でその日中にロサンゼルスに戻らないとならなかったため、約700㎞をたんたんと移動するだけだったからだ。

 カリフォルニア西岸の大動脈であるインターステイトハイウェイ、5号線の両脇にはサクランボ畑が広がっていた。まだ2月なのに、花を咲かせた桜の中を走るのは楽しかったが、やはり1号線沿いの美しさにはかなわない。

 おっと、ロサンゼルスに一度戻ってきたあと、1泊2日でセコイア国立公園を訪れたのだが、その話はまたいずれ別の機会に。セコイア国立公園、素晴らしいですよ、もちろん!

カリフォルニア

 この旅を通じて、カリフォルニアの広さと、自然の豊かさ、そして、その自然のバリエーションの多さを心底体感することができた。

 本州と同じ規模の土地なのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、じつに多種多様な風景がある。場所によって明らかに異なる自然と眺めがあり、走っていて飽きることがなかった。

 モハビ砂漠に行けば、原始の世界の荒野が広がっている。その西には、信じられない大きさの巨木が群生するセコイア国立公園を含む、シエラ・ネバダ山脈が連なっている。さらに西に行けば、透き通った青い海に、イルカやクジラ、アザラシ、ラッコなどがすぐそこを泳ぐ太平洋と美しいビーチがある。サンフランシスコではニューヨークのような、歴史を感じる町並みと芸術のパワーを感じることができる。

 ロサンゼルスは、言うまでもなく日本人にとって「最も身近なアメリカ」だ。観光スポットも山ほどあるし、それでいて、海沿いに行けば美しいビーチが途切れず続く。映画でよく見るような、音楽を聴きながらスケートでサイクリングロードを走る美女も当たり前のようにウロウロしている。

自然と都市の距離

 日本も自然が豊かな土地だと思う。だが、カリフォルニアが日本と異なるのは、大都市圏と大自然とが非常に近い場所にあるということだ。

 世界を感動させる映画を生み出すハリウッドからたった1時間の場所に、地平線まで見渡せる荒野があり、クジラの泳ぐ海がある。IT産業の世界トップに君臨するアップルとグーグルから、やはり1時間ちょっとの場所に、世界有数の大自然がある。

 そして、それらの自然の多くは日本よりも遥かに厳しく過酷だ。なのに、入っていきやすい。日本には、うっかりクルマで入って道に迷い、ガス欠して死を覚悟するような砂漠はない。

 なにもカリフォルニア最高、日本最低、と言ってるんじゃない。日本には日本の良さや美しさがある。同じように、カリフォルニアにはカリフォルニア特有の美しさ、雄大さ、そして感動が満ちている。その自然と空気と感動を、体そのもので思いっきり感じることが出来るのが、バイクでの旅だ。

今回のルートからは外れるが、オレンジカウンティのチャップマンはアンティークショップが多く集まる雰囲気のいい街。
高級品だけでなくガラクタ的なモノが多いのもいい。軍用品の放出品専門店もある

ビッグ・サー・ベーカリーアンドレストラン。この近辺にはヘンリーミラー美術館などもあり、文化的な香りが漂う

自然と都市の距離

 ロサンゼルスに帰ってきた翌早朝。ドアを開けて、まだ薄暗い住宅街に足を踏み出すと、空はどんよりと曇っていた。カリフォルニア、サウスベイエリアの朝は、いつもこんな感じだ。海が近いせいか、朝は濃い霧が発生することが多い。だが、陽が昇っていくに従って、その霧はきれいに晴れていく。そして、底抜けに青い……写真に撮ると黒くなってしまうような、青い、深く青い空が現れてくる。

 さあ、今日は何をしよう? どこへ出かけよう? ほっといても、そんな気分になってしまう。地図を描いてみてわかったのが、今回の旅で走ったのは、カリフォルニアのごく一部分でしかないということだ。3000㎞じゃ、全然足りやしない。おまけに、この原稿を書いているときに調べてみたら、せっかく近くを通っているのに寄らなかった名所なんかもたくさん!

 ともあれ、カリフォルニアはやっぱりバイクで走るには最高の場所だ。とくに、走り疲れたら寝て、気持ちのいいところがあったら長居する……そんな行き当たりばったりの旅が好きなライダーに最適な環境が揃っている。

 日本から飛行機で9時間。ロサンゼルスでバイクをレンタルすれば、日本を出たその日に、荒野のモーテルに泊まるのだって十分可能なんだぜ!

(完)

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