SIDEWAY – 寄り道のススメ
新しい西部劇で発見した、心地よいアウトドアスタイル

SIDEWAY – 寄り道のススメ

新しい西部劇に発見した、
心地よいアウトドアスタイル

アメリカ、大開拓時代。キャンプはまだ野営を意味し、荒野を生き抜くための手段でした。主役は過酷な環境下でも繰り返し使える堅牢な道具たち。そんな「かつての」アウトドアギアたちが使われているシーンを楽しめるのが、ネオ・ウエスタン・ムービーと呼ばれる近年制作されている新しい西部劇です。今回はその魅力を現代の荒野を旅してきた三上氏がお伝えします。

 重いけど、手触りのいい羊毛のブランケット。しっかりとした樫材で作られたフレームに、厚手のキャンバスがピンと張られたコット。そして、やはり重いけれど、どんな料理でも美味しく見える鋳鉄のスキレット。

 そんな、重いけれども使っていて気持ちいいアウトドアグッズが好きな人なら、ここしばらく増えつつあるネオ・ウエスタン・ムービーを、きっと気にいるはずだ。

 
 50代も終わりに入りつつある僕の世代や、もう少し若い方は西部劇に興味がない人が多いと思う。僕も、子供の頃にはまったく興味がなかった。別に嫌いというわけでもなかったが、親や上の世代に反抗して生きることがトレンドだった時代なので、上の世代が大好きな西部劇もセットで嫌っていたのかもしれない。もちろん、好きな人もたくさんいたと思うけれども。

 しかし、ブラッド・ピット主演の「レジェンド・オブ・フォール」、レオナルド・ディカプリオ主演の「レベナント・甦りし者」などの新しい手法で作られた西部開拓時代、あるいは南北戦争時代を舞台とした映画に、僕は気がついたらすっかり魅せられてしまっていた。考えてみれば、きっと「ダンス・ウイズ・ウルブス」の頃から、僕はこのジャンルが好きになり始めたのだと思う。

 これらの映画は、実在の人物や事件をモチーフとしたものも多く、映画を見た後に実際の事件を調べてみたりするのも楽しい。おかげで、近代アメリカ史に対する知識は、過去に比べるとはるかに多くなった。

 そして、それらの映画に登場する家や家具、調理器具、食器や服などが最高に魅力的だということも、好きな理由の1つである。冒頭に書いたような、重いけれども手触りの良さそうな服やテント、鍋などが多く登場する。まるで、オシャレなアンティークショップにいるような気にもなってくるのだ。

 特に、これらの映画によく出てくる、焚き火を囲んでブランケットにくるまって眠るキャンプスタイルは、砂漠地帯のアメリカの旅だからこそできる、究極の野宿スタイルだ。日本のほとんどの場所じゃあ、毛布にくるまって地面に寝たら湿気でびしょびしょになってしまうからね。

 
 そんな魅力的なキャンプシーンやアパレル、アウトドアギアを見るだけでも楽しい映画の、僕にとっての筆頭の1つが「トゥルー・グリット」だ。親を使用人に殺された14歳の少女が、腕がいいと言われている連邦保安官を雇ってその使用人を捕まえに行く、というのがざっくりしたあらすじだ。

 俳優陣は、ピッチ・パーフェクトなどにも出演しているキュートなヘイリー・スタインフェルド、ジェフ・ブリッジス、マット・デイモン、ジョシュ・ブローリンと豪華メンバーだ。それもそのはず、監督は「ノーカントリー」などでネオ西部劇の時代を築いたといわれるコーエン兄弟、製作総指揮は巨匠スティーブン・スピルバーグなのだ。

 かわいいルックスの裏に強い意思を秘めた少女が、扱いにくい老人の尻を叩きつつ歩む荒野は、馬と馬車の時代だった昔のアメリカの姿を見せてくれる。暑い砂漠だけじゃなく、美しい川が流れる森林帯や、雪の積もる北部まで余す所なく。

 映画自体もアクション映画として非常に面白いと僕は思うけれども、映画に登場するモノを見るだけでも目に心地よい。すでに12年前となる2010年の映画だけど、古さはまったく感じないし、見ていない人はぜひ一度見てほしいと思う。

 
 僕はカリフォルニアの砂漠や、バハカリフォルニアの砂漠地帯を何度も何度もバイクや車で走っているけれども、その風景が西部劇の時代から変わっていないことを、これらの映画を見て知った。

 砂漠をわたっていく乾いた風、ジリジリと肌を焦がす太陽の熱。靴が砂を噛む、じゃりっとした感覚。そんな大自然の魅力が感じられる映画だと、僕は思っている。

三上勝久(みかみ・かつひさ) 1965年、東京生まれ。バイク雑誌の編集を経て、2005年にライディング・ライフスタイル・マガジン『FREERIDE Magazine』創刊。編集長として世界中のレースを取材。地球上で最も過酷なレースと言われるBAJA1000に10度参戦。ライダー、記者としてその面白さを伝えることをライフワークとしている。

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