SIDEWAY – 寄り道のススメ
「伝説の旅」

SIDEWAY – 寄り道のススメ

「伝説の旅」

今回のサイドウェイは趣向を変えて、少しばかり古い映画ご案内しようと思います。 「180° SOUTH」。 今をときめく2大アウトドアブランド<パタゴニア>と<ザ・ノースフェイス>の創業者2人が若き日に旅した南米パタゴニアを、40年経て再び訪れるという物語です。日本でも10年以上前に公開されました。長きパンデミックの呪縛から世界が徐々に日常を取り戻しつつある今、再び冒険心を持って世界に羽ばたける日を願いつつここで改めてご紹介します。
※本作品は2022年8月現在、Apple TV、DVDにてご覧いただけます。

 パタゴニアや、ノースフェイスというアウトドア・ブランドを知ったのは1980年代後半のことだった。僕はアメリカ、カリフォルニアのベンチュラにあるパタゴニア本店で初めてパタゴニアのジャケットを購入した。

 まだパタゴニアというブランドは、日本ではさほど知られていなかった。当時僕が参加し始めた砂漠のレースの先輩が着ている姿に憧れて、僕も着るようになったのだ。ゴアテックスを使用したマウンテンパーカや、完全防水仕様のカヤック用ジャケット、スカノラックなどを愛用していた。今も数点、着続けているものがある。

 価格は決して安くはないが、作りと機能が優れていたことで、実際に使用してみてパタゴニア製品が大好きになっていった。

 パタゴニアの始まりは、創業者、イボン・シュイナードが自宅で始めた登山用具作りだということはもともと知っていたが、2007年に「社員をサーフィンに行かせよう」というイボン・シュイナード自身による書籍を読んで、さらにパタゴニアというブランドに愛着が湧いた。今でも、素晴らしい企業家、冒険家、ナチュラリストとして尊敬している。

 今回紹介する180°SOUTHという映画は、イボン・シュイナード自身も出演している2010年のドキュメンタリー作品だ。


 映画の冒頭は、パタゴニアの創業前の工場が映った、歴史を感じる16mmフィルム映像から始まる。以下のような感じだ。


 1968年、アメリカのカリフォルニアから南米大陸最南端に近い土地、チリのパタゴニア地方を目指した若者2人がいた。中古のワンボックス車にサーフボードや登山用具を積み込んで、片道1万km以上に及ぶロングトリップを開始した。南北アメリカ大陸を繋ぐパン・アメリカン・ハイウエイのほとんどが、未舗装路だった時代のことだ。

 目的は、パタゴニアを走るアンデス山脈の高峰、フィッツ・ロイに登ること。半年間にも及んだこの旅は、16mmカメラで記録されていた。

 この記録映像を見た青年、ジェフ・ジョンソンは、彼らの旅の様子に強く心を揺さぶられ、彼らの旅の足跡を追う旅に出る。ただし、クルマで道を走っていくのではなく、チリに回送されるヨットに乗せてもらっていくことにしたのだ。ヨットはカリフォルニアから南下、赤道を越え、イースター島を経由しチリへと向かう。チリではフィッツ・ロイではなく、コルコバド山の登頂をイボン・シュイナード、ダグラス・トンプキンスらとともに目指す。

 そう、この2人こそ、1968年に伝説となったパタゴニアへの旅を果たした張本人たちだ。イボンはパタゴニア、ダグラスはザ・ノースフェイスの創業者だ。一緒に歩き、波に乗り、山を登りながら、ジェフはアウトドア業界の重鎮と言える2人の、自然や旅、環境に対する考え方を聞き出していく。


 今回の旅で撮影された数々の美しい自然の映像に、40年前に撮影された昔の旅の映像が差し込まれ、時代の変化も感じられる作品となっている。

 チリ、パタゴニアの素晴らしい自然、イースター島の歴史や、そこに住む人の暮らし、自然…アウトドアのライフスタイルが好きな人なら目を奪われてしまうだろう映像が途切れることなく続く。リラックス感のあるジャック・ジョンソンの音楽も、海を感じさせるムードに一役買っている。


 ただ美しいだけでなく、この映画では同時に、地球全体で起きている文明の進化、工業化が引き起こす問題点も指摘していく。地球上の自然を守るために我々ひとりひとりがすべきことは何なのかを考える作品でもある。

 僕はパタゴニアには行ったことはないけれども、太古のままの自然が保たれている場所には数多く訪れているので、その貴重さや美しさは理解できる。

 そうした自然を体験したことのある人も、ない人も、自然の美しさとそこにある時間や空気を体験できる素晴らしい映画だ。いつか僕もパタゴニアに行って、彼らが目指した山々を遠くからでも眺めてみたい、そう思った映画だった。

三上勝久(みかみ・かつひさ) 1965年、東京生まれ。バイク雑誌の編集を経て、2005年にライディング・ライフスタイル・マガジン『FREERIDE Magazine』創刊。編集長として世界中のレースを取材。地球上で最も過酷なレースと言われるBAJA1000に10度参戦。ライダー、記者としてその面白さを伝えることをライフワークとしている。

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