「 コーヒーと伊豆とチェアリング(前編)」

人気ギアレビューサイトOutdoor Gearzine × RIVERSのコラボ企画

コーヒーと伊豆とチェアリング【前編】
人気ギアレビューサイトOutdoor Gearzineとのコラボ企画

「 コーヒーと伊豆とチェアリング(前編)」

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「 コーヒーと伊豆とチェアリング(前編)」
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自ら製品を試し、忌憚のないアウトドアギアの使い心地を発信し続けているギアレビューサイトOutdoor Gearzine。 編集長・久冨保史氏にとって欠かせないものが、自然の中でコーヒーを楽しむ時間です。 そのかけがえのない体験を彩るパートナーとして、リバーズのコーヒーギアを本音でレビューしてもらいました。 舞台は伊豆。 標高1000m越えの山々の中に突如として現れる神秘的な湖、八丁池。 果たして道中、何が待ち構えているのでしょうか。

そしてコーヒーは理想の山旅の必需品となった

ただ登って下りてくるだけというのも、何だか味気ないなーー。

山を登るようになってから25年が経とうというころ、ふとそんな思いにかられ、何の気なしに山で好きなコーヒーを淹れて飲む、ということを始めてみた。

とはいえ実際に山でコーヒーを淹れるとなると、コーヒー豆をはじめ抽出器具など、これまで以上に多くの道具が必要になってくる。もとより自分はお世辞にも繊細とはいえない味覚の持ち主であることは百も承知だ。とにかくまずは「コーヒーを淹れる」という特別な時間を堪能できさえすればそれでよかった。だからはじめのうちはコーヒーも粉で十分。抽出器具などもとにかく荷物の邪魔にならない、簡素な超軽量モデルで揃えていった。

しかし数年前、たまには豪華にいくのもいいかと、勢いで沢登りに本格的なコーヒーセットを持ってきてみたのがいけなかった。

朝の起きぬけに、他のメンバーがまだ起きてもいないなか寝ぼけ眼でせっせとコーヒー豆を細かく挽き、お湯を沸かして淹れた苦みの強い1杯のコーヒーが、味音痴の自分でも間違えないくらい美味すぎたのだ。

鬱蒼とした木々に囲まれ、絶えず聞こえてくる沢の音、時折響く鳥のさえずり。すべてがこの一杯のためにお膳立てされている気がした。以来その味、というよりもそのときの満ち足りたひと時が忘れられず、山に入るときには常に、隙あらばコーヒー豆・グラインダー・抽出器のセットを持ち歩くようになってしまったというわけだ。

今では大自然に抱かれながら飲む完璧な一杯のコーヒーがあれば、どんなに最悪な天気、最悪なルートであったとしても、ぼくにとっては充実した旅になる。そんな理想の山旅に欠かせないお供が山コーヒーなのだ。


ソロハイカーの視点から、Riversのアイテムをレビューしてみる

そんな山コーヒーにハマった話を聞いて「じゃぁうちのコーヒー・アウトドア道具を山で使ってレビューしてみない?」と言ってくれたのがこのレポートの発端である。ただはじめは、確かに山でコーヒーを淹れることは好きだがコーヒーのプロでもない、味音痴な自分で果たしていいのだろうかと躊躇した。それに対してコーヒーの専門家が味の視点から語るのではなく、アウトドア好きのプロ素人の視点からRiversのアイテムの好きなところ・もっとこうした方が良いというところ・最適な使い方などを掘り下げてくれることがいいのだと言ってくれた。

その熱意と心意気に動かされ、話は決まった。ぼくはさっそく今回のレビューの旅にふさわしい場所を探すことにした。


伊豆にブナの原生林?行ってみるしかないじゃないか

とはいえ、さて困った。時は1月。自分がこれまで歩いて蓄えてきた間違いなしの絶好のロケーションはほとんどが雪に覆われてしまっているし、雪のない西の方へ行く余裕もない。日本地図を眺めながら気持ちが萎えかけていたその時、とある地域が目に留まった。それこそ実は以前から気にかかっていた、本州の南東にポッコリと突き出た伊豆半島だ。そういえば……。

伊豆半島といえば、東京から1時間で行けるリゾートである熱海や城ケ崎などの海や温泉を思い浮かべる人は多いと思う。

ところが少し調べてみてびっくり。伊豆には風光明媚な海岸線の背後に、1000メートルを越える山々を連ねた深い山稜地帯が縦横無尽に伸び、その中心には日本百名山でもある天城山が鎮座している。山域にはブナやヒメシャラなどの原生林をはじめとして、世界的にみても貴重な生態系を有しており、そんな生物の多様性や豊かな自然にどっぷりと浸れるおいしそうなトレイルが満載。じつは伊豆って、めちゃくちゃハイキング天国なのでは!?

個人的には百名山である天城山は気になっていたものの、それ以外にもここまで魅力にあふれた場所とは驚きだった。その驚きはすぐに好奇心へと変わり、心の芯に明かりが灯ったのが分かった。もうここしかない、すぐに旅の支度をはじめよう。


原始の森にひっそりたたずむ、凍てついた湖へ

今回の旅の目的はずばり、冬の天城の森に抱かれながら、Riversのアイテムでじっくりとコーヒーを堪能し、食事を作り、夜を明かすこと。

この1泊2日の天城への旅をデザインするときに、なにより最もこだわったのは「どこで落ち着いてコーヒーを淹れるか」だ。山頂は当然候補に考えたが、厳冬期の1000m峰で寒風吹きすさぶなか落ち着いてコーヒーが淹れられるはずがないということで却下。なにも山頂に立つだけがハイキングではない。この旅の主役は森とコーヒーだ。大自然に囲まれながら、熱いコーヒーとともに静寂の時をできるだけ長く過ごしたい。このためできるだけ軽くて快適なキャンプチェアも背負っていこう。

そんなありったけの妄想を掻き立てながら資料を調べまわり、そんな望みをかなえてくれそうなふさわしい場所が見つかった。それが1日目の目的地、八丁池だ。標高1000m越えの高所に突如として現れる神秘的な湖。聞けばこの季節は凍結していて、昔は天然のスケートリンクになっていたとか。池の周囲の天城火山の緩斜面にはブナやヒメシャラをはじめとする原生林が広がっているし、池のほとりには平らな芝生があって椅子を設置するのにも良さそう。最高じゃないか。今回の旅は何かに導かれている気がする。

そしてぼくは1月の某日、ついに伊豆の奥地にある天城峠の登山口から天城の森に足を踏み入れた。

八丁池へはいくつかのルートがあるが、今回は天城トンネル入口の道が工事により通行止めになっていることなどから、急遽予定していた天城峠越えルートを変更し、御幸歩道を歩くことにした。

スタート地点に立ったはいいが、早朝から目の前を大型トラックが激しく行き交い、歩き始めの林道沿いは土木工事のフェンスが並ぶなど、何とも興を削ぐスタート。こんなところに本当にブナの原生林があるのだろうかとのっけから不安になる。

30分ほど歩くとそんな林道も終わり、ようやくトレイルがスタートした。歩いてすぐ、さっそく杉林の奥から鹿の家族が出迎えてくれた。しかしここでは人間は所詮よそ者。早朝の食事を邪魔してしまい申し訳ないと謝りつつ、内心ではスタートでの不安をかき消すほどの自然の濃さに嬉しくなっている自分がいた。

この日は冬の太平洋側らしい、乾いた冷たい空気もさわやかな快晴。しんと透き通った空気のなか、霜柱によって盛り上がったトレイルをザクザク小気味好い音をたてながら歩く。これこそぼくが大好きな冬の山歩きだ。


森深く分け入れば、そこは巨木の展覧会

奥に行けば行くほど、明らかに長い年月を感じさせる立派な木々が増え、森の濃さが増していく。気持ち良すぎてシャッターボタンを押す手が止まらない。

そして森の様相がいよいよ杉からブナとヒメシャラが乱立する原生林へと移り変わっていく。下を見れば、落ち葉の絨毯の上に力強く根を張るブナの幹はびっしりと苔に覆われ、立派なあご髭を蓄えた森の主のように堂々とした佇まいを見せている。

一方で上を見上げれば、1000年以上の年月を経て伸びた無数の枝が、そのけた外れの生命力を誇示するかのようにダイナミックに力強く拡がり、こちらの眼を愉しませてくれる。


見た目シンプルだけど随所に小技が効いたキャリーボトル「スタウトエア1000」

充実しすぎていくら堪能してもきりがないので、少し歩みを止めて小休止することにした。

ここでようやくだが、今回託されたRiversアイテムの一つ、軽量ボトルの「スタウトエア1000」を取り出し、水を飲んだ。

山のウォーターキャリーとして長らく最もポピュラーなのは言うまでもなく「ナルゲンボトル」だろう。自分もさまざまなサイズを所有してきた。このボトルは系統こそナルゲンをベースとしているが、さすが後発アイテムというだけあって随所に使いやすさの工夫がみられる。

まずデザイン。ナルゲンの大味な色使いと違い、上品で蓋との統一感がとれたカラーリングはとても気に入っている。日本人の手の大きさになじみやすい少し細めの形状も好感が持てる。バックパックのサイドポケットへの取り付けもしやすい。

次にお気に入りなのは蓋に取り付けられたシリコーンストラップだ。一般的には蓋の落下防止、そして持ち運びの際にカラビナを装着するために使うパーツ。しなやかで使いやすいな、という以外特にこれといった機能はなさそうだが、これが実に良くできている。

競合メーカーのボトルの多くはキャップの真上に落下防止のストラップが取り付けられているが、このスタウトエアはストラップのジョイント部がキャップの縁に避けられているのだ。これによってキャップを回し開け閉めする際にストラップが邪魔にならない。ともすれば気づかないかもしれない地味な点だが、ストレスのない使い心地の良さに対する配慮に感動した。

さらに飲料を飲む時に水が勢いよく飛び出さないよう、あるいは万が一倒してもたくさんこぼれないよう、標準で中蓋が付属している。水を汲むとき・洗うときには広口で、飲むとき・注ぐときは細口でと使い分けることができる。よく細口と広口が選べるボトルがあるが、これならばどちらの機能も有しているため、まさに一石二鳥なのだ。

100℃の耐熱性を備えたBPAフリーの軽量かつ頑丈な樹脂製で、ハードなアウトドアでも遠慮なく使用できる。別売りのストレーナーと一緒に使うことで水出しコーヒーや茶葉を使った飲み物も楽しむことができるという。

唯一の不満点は、視認性が決して良いとはいえないメモリ表示部分。メモリ幅は50ml単位で満足しているので、デザインがよいだけに個人的にはもう少し見やすければベストだったと思う。

後編へつづく)

RIVERS COFFEE COLUMN