WANDERLUST 002
SJ編集長エッセイ
WANDERLUST
初トレランレースの52歳は、
無事完走できるのか
(後編)
SJ編集長が語る徒然なアウトドア日記(のようなもの)です。 年齢の割にハードな遊びから、まったりとしたアウトドア遊びまで幅広くこなす編集長がお伝えする、(おそらく無理かもしれない)毎週連載コーナー。 あまり期待せずに、寛容な心でお楽しみください。
初トレランレースの52歳は、果たして無事完走できるのか(後編)
さて、折り返し地点を僅かに越えて、調子が良いのか悪いのか、ますます混乱の様子を深めるトレランデビューレース。
少しペースを下げようと反省しつつも、下りに入ると「ひぇ〜」と勝手にペースアップしてしまう。上り坂は歩いてしまうし、下り坂はオーバーペースだし。初心者は、ただ道なりに走っているだけであった。ペース配分ができるはずもなく、見えない誰かに引きづり回されるように駈け下る。
この先は下山が始まるので9割が下り坂。途中には舗装林道も含まれていて、これまで平地では体験したことないスピードだ。これで転んだら大怪我間違いなし。どうなっても知らんぞぉ(もはや、捨て鉢な気分になってきた)。
ところが、ひたすら下るだけの坂の連続は、転倒するより先にボクの弱点である腰にきた。腰痛持ちのボクにとっては、腰に負担がかかる姿勢がことさらに辛い。恐らく下りのスピード調整のために少しだけ姿勢がのけ反っているのか、足を一歩前に出すたびに、ムエタイ選手に腰をタイキックされているかのような激しい衝撃が襲ってくる。キツい、キツすぎる。
登りの連続は精神的にツラく、下りの連続は肉体的にキツイ。
まったくもって、エントリーした自分自身に愛想が尽きる。
ところが、残り3km辺りからのアップダウンが交互に続く細いくねくね道に入ると、上り下りのバランスが良いせいか、不思議なことにむしろ調子が良くなってきた。
頭上から垂れ下がる木を素早くしゃがみ込んでくぐり抜け、目の前の水溜りを大きなジャンプで飛び越え、前に現れる前走者を次々と追い抜いていく(*注:半分くらいは本人の妄想です)。
まるで獣のように木々の間を駆け抜けるのは(少なくともボクとしては駆け抜けている気分なのです)、己の中の野生が呼び覚まされるような感覚。ここまで頑張ってきた足腰はもうかなり限界だけど、森の中を走るのがこんなにスリリングだとは想像していなかった。森を抜け出れば、ついに残り数百メートルの平地を走ってゴールを目指すのみだ。
けれど、ここで何とミスコース。50mほど進んでから道を間違ったことに気づき、慌ててUターンする。先程追い抜いた選手たちが前を走るのを見て、焦ってスピードアップしようとした瞬間、なんと太もも裏側が両足同時に攣ってしまった。
改めて言うまでもないけど、人は両足が攣るとまったく動けません。ただの直立不動。田んぼの案山子状態(そして格好悪いことに、立ち尽くすボクの隣は田んぼだった)。必死に両手で太ももを叩き、揉みほぐし、なんとか足を少しずつ前に踏みだす。
側から見ると、両足モミモミしながら走るオジさんはきっと気持ち悪いだろうなぁ、と思いながら。
でも、そうして足を動かしていたら、なんとか走れるようになってきた。フラフラ、ヨレヨレの状態で、ようやくゴール。(さっきの獣は一体どこにいったんだ?)
疲れた。完走できて良かった。足が攣ってしまって悔しい。ゴール嬉しい。いろいろな感情が混じりながら、じんわりと達成感に変化していく。
ゴール後にタイム計測器を返却にいくと、そこで結果表をもらうことができた。総合240人中、49位。2時間をちょっと切るタイム。なんとも微妙な順位だけど、デビューレースとしてはボクなりに評価してあげたい気分ではあった。最後まで心臓も止まらなかったし(止まりそうだったけど)、腰痛や両足攣りに襲われながらも走りきった52歳。
やれやれ。兎にも角にも、初めてのトレランレースがようやく終わった。
もうトレランなんて絶対やらないぞと心に誓いつつ、帰路についた。
さて後日。
もう2度と大会には出ないはずだったんだけど、ふと我に返ったら初レースの余韻も終わらぬうちに次レースにエントリーしてしまった(バカなのか?)。次はなんと27kmコースだ。今度ばかりはちょっと完走できないかもと、すでに憂鬱な最近です。本当に自分でも理解できない謎の精神構造。
— でも、きっと、だから人生は面白い(と、思うしかないのだ)。